2014/10/01

文士の時代

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今年9月に中公文庫で再販になった林忠彦「文士の時代」を読んでみた。
林忠彦といえば、バー「ルパン」の太宰や安吾が有名だけど
それだけでなくここには昭和の著名な作家百余人のポートレートとエピソードが収められている。

どの写真も力があって、作家の日常だけではなく彼らの生き方の中心部分、
言い換えればコアのようなものが的確に、まるでスポンと刳(く)り抜いたように写っていることに驚かされる。
しかしただ刳り抜くとひとことで言っても、そのためには例えば川端康成の場合は四十年に及ぶ交友があって漸く撮れた一枚だったり
谷崎潤一郎は咄嗟の判断でテーブルの下に潜ませておいたカメラで奇跡的に撮れた一枚だったりする。

またこの本を読むと撮影者である林氏の、「顔というもの」に対する慈しみと尊敬がよく伝わってくるわけだが
その彼にして結局最後まで「顔が決まらなかった」三島由紀夫についての記述が興味深い。
あまりここに書いてしまうともったいないので直接手にとっていただけたらと思う。

僕自身はポートレートを撮らないけれども、本好きの人も写真好きの人もたぶん楽しめるんじゃないかな。
ただし買った時は、あ、シマったと思ったのだ。なんといっても文庫本だから写真としての鑑賞に耐える紙質ではない。
しかし最初にも言ったけど写真自体の力が強いし、何より撮影と人物にまつわるエピソードに読み応えがあるので損はしないと思う。
というわけで秋の夜長の一冊としてお薦めです。でも文庫にしてはちょっと高いね。¥1,300。

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